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理系の文章ガイドライン

主に理工系の学術論文のためのチェックリスト

はじめに

このガイドラインは、理系の論文・報告書・技術文書を主な対象とし、文章の明瞭さ、正確さ、一貫性を高めるための指針をまとめたものである。平易な表現、論理的な構成、用語の統一、根拠の明示などの原則は、分野を問わず、説明や議論を目的とする文章にも広く活用できる。

想定読者とその前提知識、文章の目的と形式に応じて、必要な項目を選び、執筆や推敲に活用する。論文の構成や引用形式など、特定の文書を想定した項目は、該当する場合に適用する。投稿先・提出先に指定がある場合は、それを優先する。文体や構成に関する推奨は機械的に適用せず、正確で読み手に伝わりやすい文章にするという目的に照らして判断する。

1. 基本的な文の構造

  • 平易な言葉遣い: 現代的で簡単な言葉遣いを心がける。専門用語を使う場合は初出時に説明を加えるか、注釈をつける。
  • 主語・目的語・述語の明確化: 文の骨格である主語・目的語・述語を明確にし、省略する場合は文脈から容易に補えるようにする。誰が何をしたのか、何がどうなったのかを明確にする。
    • 比較する場合は比較対象を明示する。
  • 能動態・受動態の選択: 誰が何をしたかを明確にするため、能動態を基本とする。方法の説明などで、動作主よりも対象や操作に焦点を当てたい場合は、受動態を用いる。
  • 一文の簡潔さ: 意味のまとまりを保ちながら、一文を簡潔にする。
    • 主語と述語を近くに置く。
    • 複雑な修飾関係を避け、必要なら文を分ける。
    • 名詞を修飾する節が長く複雑な場合は、文を分ける。
  • 修飾語の配置: 修飾語は、文法上自然な範囲で修飾対象の近くに置く。「だけ」「も」などを含め、何を修飾しているかを明確にする。
  • 助詞の連続回避: 助詞が連続し過ぎないよう、文構造や語順を工夫する。「〜が〜が〜」「〜を〜を〜」など。
  • 多義的な助詞の注意: 「の」や「が」など、複数の意味に解釈できる可能性のある助詞の使用に注意し、誤解を招かない表現を選ぶ。
  • 句読点の適切な使用:
    • 読点(、): 文の構造を分かりやすくし、意味の区切りを示すために適切に打つ。打ちすぎ、打たなすぎに注意する。
    • 句点(。): 文の終わりには必ず打つ。

2. 表現の精確性と客観性

  • 事実と意見・推測の区別: 実験結果や確立された事実と、筆者の解釈・意見・推測(「〜と考えられる」「〜と推測される」「〜かもしれない」等)を明確に区別して記述する。
  • 客観的・具体的な記述: 「非常に」「とても」「かなり」などの主観的・曖昧な修飾語は使いすぎず、可能な限り具体的な数値や客観的な描写を用いる。
  • 動詞を中心とした表現: 不要な名詞化を避け、簡潔な動詞で表せる場合はそうする(例:「検討を行う」→「検討する」)。
  • 正確な動詞の選択: 実際の行為と根拠の強さに合う、平易で正確な動詞を選ぶ。難しい語への置き換え自体を目的にせず、「示唆する」「示す」「証明する」などを、根拠に応じて使い分ける。
  • 冗長表現: 説明をわかりやすくするためなら良いが、読者の理解を助けないような言い換えは避ける。

3. 語彙と表現の一貫性

  • 指示代名詞の明確化: 指示代名詞(これ、それ、あれ、など)が何を指しているのか、文脈から明確に分かるようにする。曖昧な場合は具体的な名詞に置き換える。
  • 用語の統一: 同じ概念や対象には、要旨・本文・図表・キャプションを通して、基本的に同じ単語や表現を一貫して使う。不必要な言い換えは読者の混乱を招くため避ける。
  • 並列要素の統一:
    • 単語や句を並列させる場合、文法的なレベル(品詞など)や意味的なレベルを揃える(例:「AとB、およびC」「Aすること、Bすること、Cすること」)。
    • 分類や選択肢を網羅する目的の場合は、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:漏れなく重複なく)になっているか確認する。例示など、網羅性が不要な列挙には求めない。
    • 並列する要素の順序(重要度順、時系列順、五十音順など)に一貫性を持たせる。

4. 表記の統一性

  • 数字・単位の表記:

    • 算用数字・漢数字の使い分けルールを統一する(横書きでは算用数字が一般的)。
    • 数字の半角・全角を統一する(通常は半角)。
    • 数値・単位の表記を文書全体で統一し、投稿先の指定に従って、原則として国際単位系(SI)を用いる。単位記号は立体(ローマン体)、量記号は原則として斜体(イタリック体)で表す。
    • 数値と単位記号の間にはスペースを入れる(例:10 mg、25 °C)。ただし、平面角の度・分・秒の記号(°、′、″)の前には入れない(例:30°)。
  • 略語・記号の定義: 略語は初出時に正式名称とともに定義する。量を表す記号や独自の記号は、初出時に意味を定義し、必要に応じて単位も示す(例:「平均二乗誤差(MSE)」「試料の質量 m(単位:kg)」)。定義後は、同じ意味・表記で一貫して使用する。

  • 文体の統一: 敬体(です・ます調)と常体(だ・である調)を文章全体で統一する。論文やレポートでは常体が一般的。

5. 説明の明確さ

  • 接続詞の適切な使用: 「つまり」「すなわち」「したがって」「しかし」などの接続詞は、前後の文脈との論理関係を正しく示すために適切に使用する。単なる繰り返しや論理の飛躍がないか確認する。
    • 「しかし」は、前後に対比や期待とのずれがある場合に用いるが、単なる情報の追加には「また、そして」などを用いる。
  • 循環定義・説明にならない言い換えの回避: 説明対象の語や未定義の同義語に依存した定義を避ける。読者が独立に理解できる特徴・条件・具体例を用いて説明する。例えば、「量子的な系」が未説明のまま「量子力学とは、量子的な系を記述する理論である」と述べても、初学者への説明としては不十分である。
  • 図表との連携: 図や表で視覚的に示した方が分かりやすい内容は、文章で冗長に説明するのではなく、図表を効果的に活用する。図表には必ずキャプションを付け、本文中で参照する。
    • キャプションには、投稿先の形式に従って、番号・タイトル・必要な説明を含め、凡例や出典を必要に応じて示す。図表とキャプションだけでも、内容をおおむね理解できるようにする。
  • 数式の説明: 数式を用いる場合は、数式の成立する状況、意味や結果を言葉で補足する。数式の導出過程は丁寧に説明する。ルールを決めない限り、曖昧な表現は避ける。例えば、平均の記号(例:E_{X~P}[X^2])を使う場合は、必ず何に関する平均なのかを明示する。
  • 参照箇所の明示: 過去の記述内容を参照する際は、「前に述べたように」だけでなく、「第2章の2.1節で述べたように」「(式3)で定義した」のように、具体的な箇所を明示する。図表・節・数式の参照番号が、実際の参照先と一致しているか確認する。
  • 参照する数式が遠いページにある場合で、数式自体が短い場合は、わざわざ参照させるのではなく、参照番号を載せつつ、数式自体を本文中に挿入することも検討する。

6. 段落(パラグラフ)の構成

  • 一貫した主題: 各段落は、一つの中心的な話題や主張(トピック)に集中させる。
  • 適切な長さ: 一つの主題を十分に説明でき、読者が追いやすい長さにする。長い段落は主題が混在していないか、短い段落は説明不足や統合の余地がないかを確認する。
  • 段落の目的意識: 各段落が文章全体の中でどのような役割(説明、主張、理由、例示、比較、補足、要約など)を果たしているかを意識して構成する。
  • トピックセンテンス: 各段落の主題を明確にし、原則として冒頭付近に中心的な内容を示す文(トピックセンテンス)を置く。論理の流れに応じて、ほかの位置に置いてもよい。

7. 文章全体の論理構造

  • 段落間の接続: 段落間の論理的なつながりを明確にする。適切な接続詞や接続表現を用い、話の流れがスムーズになるように構成する。
  • 構成要素の明確化: 章、節、項などの構成要素ごとに、その目的や主張が明確になるように記述する。必要に応じて、章や節の冒頭でその内容を概観し、末尾で要約や結論を述べる。
    • 読者が先に知りたがることに配慮する。
    • 「全部読んで初めて理解される」ではなく「読んだところまでで理解される」文章にする
  • 全体の構成: 序論(問題提起、目的)、本論(方法、結果、考察)、結論(まとめ、今後の課題)など、文章の種類に応じた標準的な構成を意識し、論理的で一貫性のある流れを作る。
    • 分野と投稿先が求める構成(例:序論・方法・結果・考察からなるIMRaD)に従い、各節に必要な情報を含める。
    • 序論:背景、先行研究で未解決の点、研究目的・問い、必要に応じて仮説を示す。
    • 方法:研究を再現するために必要な情報を示す。
    • 結果:得られた結果を客観的に示す。
    • 考察:結果の解釈、先行研究との比較、意義、限界を示す。
  • 主張と根拠の対応: 各主張をどのデータや引用が支えているかを明確にし、根拠から結論への論理的なつながりを確認する。
  • 要旨・序論・結論の整合性: 各部分の役割に応じて、研究目的・主要結果・結論のうち必要な情報を明確に示す。すべてを各部分で繰り返す必要はないが、相互に矛盾がないか確認する。

8. 引用・参考文献

  • 出典の明記: 他者の研究成果、データ、図表、文章などを引用または参照する場合は、必ず本文中の該当箇所に、投稿先が指定する形式で出典(著者名・年、参照番号など)を明記する。本文中の引用と参考文献リストの両方で、指定された形式を一貫して用いる。
  • 参考文献リスト: 引用・参照した文献は、定められた形式(学会指定のフォーマット、投稿規定など)に従って、文章の末尾に参考文献リストとしてまとめる。著作権や研究倫理の遵守に不可欠。
  • 書誌情報の確認: 著者名、発行年、題名、学術誌・書籍名、巻・号・ページ、DOIなど、指定形式に必要な情報が正確で、誤記や欠落がないか確認する。
  • 本文と文献リストの対応: 本文中で引用・参照した出典が文献リストに含まれているか、文献リストの各項目が本文中で引用・参照されているかを確認する。

9. 推敲

  • 必須の工程: 書き上げた文章は必ず読み返し、推敲を行う。
  • 原則の理解と判断: 各項目が読者の理解、信頼性、再現可能性にどう役立つかを意識する。簡潔さと説明の十分さが競合する場合は、文脈に応じて、正確で理解しやすい記述を優先する。
  • チェック項目: 誤字脱字、文法的な誤り、不適切な表現、表記の不統一、論理矛盾、事実誤認などがないかを確認する。必要に応じて、事実に関する記述を原データや出典と照合する。
  • 効果的な方法:
    • 時間をおいてから客観的に読み直す。
    • 声に出して読んでみる(音読)。
    • 印刷して紙媒体で確認する。
    • 可能であれば、他者に読んでもらい、意見や指摘(フィードバック)を求める。

References

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